【座談会】ウクライナ戦争と日本の安全保障

 

【出席者】

関芳弘  衆議院議員(兵庫3区選出)自由民主党  

竹下健二  東京工業大学 名誉教授・特任教授

宮野廣  元法政大学客員教授 元東芝原子力技師長 

 

ロシアによるウクライナ侵攻で、エネルギーをめぐる国際状況が大きく変わった。ガス、石油の国際価格の上昇と、供給不安が日本を直撃する。その中で日本は原子力をどのように活用すべきか。国会議員、研究者、元メーカー技術者が日本の進むべき道筋を探る。 (2022年4月6日 開催)

 

YouTube「 池之端未来チャンネル」にて公開中

【写真】向かって左から関氏、竹下氏、宮野氏

 

◆原子力、ウクライナ戦争で再評価へ

 

― ウクライナ戦争が日本に与える影響をどのように考えますか。関先生は経済産業省、環境省の副大臣を務められ、政界でエネルギーと環境問題のエキスパートと評価を得ています。

 

 

関・世界のエネルギーが供給、価格の面で不安定になり、先行きの予測ができません。懸念をしています。日本は無資源国ですから、できる限り海外からの供給を受けずに、自前でエネルギーを作り出せる状況を整備しなければなりません。そこから考えると原子力発電は非常に重要で、「日本の宝物」です。それを活用する必要があります。

 

 この戦争に加えて、日本では電力の供給が足りなくなる問題が、ここ数年繰り返されています。国民の皆さまのエネルギーへの不安は高まっています。私が衆議院議員として選んでいただいている兵庫3区は神戸市西部で、三菱重工業、川崎重工業、神戸製鋼所、三菱電機など、日本経済を支える企業とその関連会社が、今でも工場を置き、製造拠点とする地域です。有権者の方は電力問題に元々関心があるのですが、この戦争で一段と危機意識を強めています。電力の安定供給や価格抑制に取り組んでほしいという願いを肌で感じています。そして原子力の活用に理解を示される方が明らかに増えています。

 

竹下・広い視点で問題を考えると、今回は資源保有国が戦争を仕掛けたわけで、そういう国の国際社会での立場の強さが確認されたわけです。欧州は天然ガス、原油、石炭をロシアに依存しています。そのために資源を盾に使われて、制裁が完全にできません。ロシアは核兵器だけではなく、エネルギーも外交の道具にしています。自前資源の大切さがわかりますし、その状況で準国産電源といえる原子力発電の重要性が確認されたと思います。

 

宮野・2人の意見に同感です。そして、この戦争で社会に広がった「原子力発電所は戦争で安全なのか」という不安について、説明したいと思います。原子力発電所が戦争で壊れる可能性は少ないです。原子炉メーカーも日本を含めた各国の規制当局も、砲弾がぶつかったらどうなるかと検討しています。原子炉は数発程度なら命中しても問題はないほど頑丈で、安全は確保できるでしょう。ミサイルもその規模によりますが、一発程度は問題ないと評価していました。

 

また侵略国が原子炉の破壊を試みる可能性は、非常に少ないです。今回の戦争でも、ロシアが原子力施設の意図的な破壊を試みた形跡はありません。ロシアはチェルノブイリ(チョルノービル)原発事故を経験し、原子炉を壊せば、自分のところに放射能の影響があることは分かっています。おそらく日本が侵略を受けた場合に、攻撃してくる国も同じことを考えるでしょう。

 

 私は20年ほど前に原発の地下化の設計に関わりました。そうした原子炉は攻撃されても、原子炉の破損や放射性物質の漏洩の可能性は極端に減ります。ただし試算では、建設費が地上に建設する場合の2倍ほどになり、実際の建設は断念したことがありました。安全保障という関連から考えれば、その建設の議論をしても良いかもしれません。

 

―政府や原子力規制委員会による、原子力の安全性への広報が足りないように思えます。

 

関・福島事故、また第二次世界大戦で原爆が日本で使われた経験から、国民の皆様の間に原子力についての不安があります。ですが日本の技術力は優れ、福島事故以来のさまざまな改善や、厳格な規制で原子力発電の安全性は高まっています。これが国民の皆さんに伝わっていません。政府も私たち政治家も、もっと国民の皆さんと事実を示し、語り合う必要があります。国民の信頼が、日本のエネルギーの安定した運用を支えます。

 

竹下・原子力発電所の安全性は、東電の原子力発電所の事故の後に行われた対策で、飛躍的に向上しています。全交流動力電源喪失のリスクは1億分の1以下、炉心損傷頻度は3桁低下するとの推計が出ています。その改善についての広報が足りません。数字もきっちり入れて、原子力規制委員会と政府が示すべきでしょう。

 

宮野・社会の一般の人の話を聞いても、ほとんどの人の理解は事故以前と変わりなく、水素爆発を原子炉の爆発と思い込み、今でもチェルノブイリ事故と同じことが起きると思い込んでいる状況です。政府の理解活動は全く浸透していないのです。

 

◆日本の原子力は「民主主義陣営」の持つ技術

 

―原子力をめぐる状況は、国際的に変わったのでしょうか。

 

関・ここ数年、気候変動問題への対応策として原子力の再評価が先進国で広がっていました。昨年はフランスが原子炉の新設を国として進めることを表明する政策の転換をしています。そしてこの戦争で、自前のエネルギー源として、各国で原子力は再評価されています。

原子力は、巨大なエネルギーを生み、世界の平和と人々に幸せに役立つ技術です。そして日本はその平和利用を行い、発展させました。また近年、中国とロシアは原子力発電の開発と輸出を国として進めています。そうした状況で、日本の原子力は「自由民主主義陣営の持つ技術」という意味を持ちます。その重要性がより強まっています。

関芳弘(せき・よしひろ)1965年生まれ。関西大学経済学部卒業。英国立ウェールズ大学大学院経営学修士(MBA)。住友銀行(現・三井住友銀行)を経て、2005年兵庫3区(神戸市須磨区、垂水区)で自民党から出馬して、衆議院議員に初当選。以後当選5回。経済産業副大臣、環境副大臣などを歴任。

 

以下、「原子力規制の在り方」、「日本の原子力の未来像」と座談会は続きます。本誌ご購入いただき、ご覧ください。

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