原子力平和利用に向けた安全目標の活用

「暫定的安全目標検討会」の設置趣旨

過渡期にある原子力規制行政:
原子力発電施設は極めて大量の放射性物質を内蔵するため,何らかの原因によりその放 射性物質が環境に放出され、国民の健康、財産、社会環境などに大きな影響を及ぼす危険性 を有している。このため国は、事業者が十分な安全確保ができるように原子炉等規制法をは じめとする規制基準を定め、安全規制のガイドとしてきた。
平成 23 年 3 月に福島第一原子力発電所事故(以下、福島事故という)が発生し、我が国 の原子力のあり方を根幹的に変えた。原子力施設の管理・運営方策に大きい欠陥があったこ とを踏まえて、原子力規制委員会が原子力規制委員会設置法に則り新たに設置された。原子 力規制委員会は重大事故の防止とその影響の拡大を防ぐ対策を抜本的に要求する新規制基 準を制定し、現在、新規制基準への適合性審査が進められている。
しかしながら、この適合性審査のプロセスは予想外の時間を要しており、事業者からは、 安全の確保に万全を尽くすことの必要性には同意しつつ、新規制基準の適用における恣意 性を低減し、事業者側から見た予測可能性を高める改善を望む声があがっている。また一方 で、メディアの世論調査によれば、事故後 5 年を経て格段に安全性が向上した今日におい ても、過半の国民は原子力発電所の再稼働に懸念を持つとされており、原子力発電所の安全 性に関する理解が混乱していることが伺える。

安全目標設定の必要性:
原子力国民会議は、過渡期にある原子力規制行政の正常化を願い、これらの問題を独自に 検討し、規制活動をより一層効果的、効率的に進めるための提言を行ってきた。その一つが 確率論的危険性評価の考え方を用いた定量的安全目標の設定・活用である 。
原発の安全性について、国民は情緒的であり、理性的でない。専門家の見識と国民のそれ の間には大きなギャップが存在する。このギャップは早期に埋められる必要がある。そのた めのキーワードが“安全目標・性能目標”である。例えば、原子炉の炉心が溶融するいわゆる メルトダウンの頻度は詳細な解析の結果、10-4/炉年という値が原子力規制委員会によっ て与えられている。これは1基当たり1万年に1回炉心溶融事故が起きるというものであ り、それを満足するように原子炉は設計され、メンテナンスされるべきだということが規制 要求になる。このことは事故に対する考え方を明瞭にするもので、先のギャップを埋める手 立てになる。また、安全目標・性能目標は、原子力発電設備の弱点の発見や改良工事の妥当 性の評価にも有効である。

検討会の設置:
安全目標・性能目標が国家レベルで決められていない現在、様々な規制措置が合理的に決 められていないという恨みが散見される。活断層問題をはじめとして、バックフィット問題、 検査の近代化、規制の近代化、原子力裁判問題などにおいて、規制判断が首尾一貫していな いという事態を招いており、今後の強い改善項目となっている。原子力国民会議が、現在の 規制行政が合理化されるためには、原子炉等規正法の再改正が必要で、「定量的安全目標」 を制定すべきだと主張している理由はここにある。
原子力の平和利用を推進すべしとする意見とそれを拒否する意見の対立は常に最重要課 題でありながら、平行線を辿っていたが、福島事故が天秤の支点を反原発側に移動させてし まった。しかし、これまでの議論は悲惨な事故に情緒的に影響され単眼的であるのは否めな い。議論の正統性は複眼的観点から導出されるべきであろう。そのため、両者は対比的に議 論することが重要で、そのとき安全目標・性能目標を軸にした原子力安全論議を議論の基軸 にすることが重要であろう。これまで、腫れ物に触るように扱われてきた安全目標・性能目 標に着目し、国民の理解に留意しながら、積極的に活用していくとどのような結論が得られ るか、原子力国民会議として新しく検討してみたいと考えた。

検討方法:
ここで断っておきたいことは、本稿では「安全目標・性能目標に関する技術的な詳細に立 ち入る検討は行わない。原子力安全とその平和利用の関係を国民目線で考えていく」という ことに主眼を置いている。専門的に見て厳密であることには程ほどに留意し、判りやすい説 明に心を砕いた。記述に間違いがあればご指摘頂きたい。
この「暫定的安全目標検討会」は原子力国民会議の常設の部会である「原子力パラダイム の再構築部会」の下に設置され、4回の会合を持ち、主題について検討した。委員のご協力 に心より感謝申し上げたい。

主査   宮 健三(平成28年12月20日)

(以下省略)

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