IOJだより 〈総集編〉

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「IOJだより」総集編の発行にあたって

 「日本の将来を考える会」[ Innovation of Japan, 略称 IOJ ]は2003年4月に設立され、同年10月に任意団体として内閣府の認可を得た後、2005年10月にNPO法人として発足し、2019年11月29日に解散した。この間、16年余りの活動であった。

 そもそも、「日本の将来を考える会」は筆者が東京大学工学部で教鞭をとっていた時に想を練っていた構想であり、社会貢献の一助になるかも知れないと思い、退官後具現化したものである。一つの社会的実験の積りであった。

 その理念は、「この国は原子力なくして立ちゆかない」という信念であり、それなのに「何故、国民はこの当然と思える常識にアレルギー反応を示して止まないのか」という疑問に裏付けされた問題意識でもあった。当時、この理念と問題意識に共鳴してくださる方は学会、産業界には少なくなく、多大なるご支援をいただいた。感謝の念に堪えない。

 問題は、学術にあるのではなく、あるいは産業技術にあるのでもなく、広島・長崎での被曝体験(1945年)とビキニ環礁における水爆実験による第五福竜丸の被曝(1954年)によるものであった。“核”に起因する忌避感が国民の心に埋め込まれていった。このような忌避感は1974年の原子力船“むつ”の放射線漏れと放射能漏れを混同したメディアの誤報道によって消し難い暗い影となって定着してしまったように見える。この影は風評被害という形で残存しており、今でも解決策を見いだせないでいる。

 このような原子力社会現象は日本社会の伝統に根差しており、解決困難な問題と化しており、IOJは無謀にもこれに挑戦してきたのである。このような団体や組織は、当時はもとより現在も存在しないので、どれだけ成果を挙げたのか、評価は後世に委ねられている。しかしながら、この間、多くの協力者を得て、様々なことをできる範囲で精一杯実施してきた。

 例を挙げれば、中高生向けの「東大体験学習」や「五島列島における中高生の体験学習」などは刺激的で楽しい思い出であった。また、原子力の平和利用は我が国にとって不可欠だという信念に基づき、原子力発電について一般の方々の理解に資する活動は長年継続したが、目立った成果を上げられたかどうか、自信はないといってよい。さらに、「特定放射性廃棄物の最終処分に関する法律」に基づいて2002年から公募が開始されてきた最終処分場誘致活動に非力ながら活動してきたことも懐かしく思い出される。あの頃は稚拙な活動でありながら必死であった。

 このIOJだよりの発刊を決心したのは、2011年3月の東日本大震災及びそれに誘発された福島第一原子力発電所の事故を契機にする。同年5月のことであった。先の信念に基づき原子力利用に対する国民の恐れの緩和に向けて発信した結果が170号を数える「IOJだより」の発行に繋がった。

 今それらを概観してみると、原子力発電に関係する解説記事や原子力規制委員会の規制措置に対する批判、社会現象に関する基本的考察など、国民に対して有用な情報を、限られた活動資金とマンパワーをものともせず提供できたことは秘かな誇りである。

その概要は、
 1. 福島第一原子力発電所の事故に関する技術情報の提供。
 2. 難解な原子力発電の仕組みや機能の平易な解説。
 3. 特に民主党政権の原子力政策についての評価と批判
 4. 我が国にとって死活的に重要なエネルギー安全保障の確保と
  原子力規制委員会の非合理的な規制措置の批判。
 5.そして近年、脚光を浴びている再生可能エネルギーの実態と利用の限界の解説、
などである。

 我が国は資源小国であり、従ってエネルギー自給率は極めて低い状況にある。この重大な弱点に着目すれば、原子力の平和利用が不可欠であるということは繰り返すまでもない。それ故、福島事故は十分に手当てされるべきであることは前提であるが、しかし、それを乗り越えていくことはさらに重要であることを指摘しておきたい。

 「IOJだより」は一般の方々の理解を促進するため色々な工夫がなされてきたが、回を重ねてきた結果、得られた結論は、「この国は原子力なくして立ちゆかない」という当初の理念が間違いではなかった、という確信である。

 これまでに発行した170号にわたる情報発信をこのまま放置しておくのは惜しいという元会員の要望を勘案し、原子力国民会議の協力を得てこの総集編を発行する運びとなった。同時に、このような活動に協力してくださった同志の“志”と“熱意”を後世に残しておくということも意義あることであろう。

 現在、2050年カーボンニュートラルの達成やウクライナへのロシア侵攻は世界が激動の時代に突入したことを啓示しており、エネルギーの確保に関する見通しは不透明感を増している。その中で、日本のエネルギー安全保障を確かなものにするうえで、原子力発電の再生と展開は喫緊の課題であり、エネルギー自給率の向上を目指す時、本書が有用な資料となれば望外の幸である。

2022年5月吉日
宮 健三(理事長、当時)

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