地域発展の起爆剤―高レベル放射性廃棄物の最終処分場 第 13 回 どうするの? 技術は安全ですか?(3)日本に適地はあるのですか(3)地下水の影響

日本のように地下水が多く、平地が少ないので地下水の動きが大きいと考えられるところでは、地層処分した高レベル放射性廃棄物の放射性物質が地下水に溶けて移動し、放射能で人間の生活環境を汚染してしまわないかという懸念を懐く人がいます。その懸念が無用であることを説明します。

地下水の動きと性質

日本は比較的雨が多く、どこでも地下には地下水が存在します。世界的に見ても現在地層処分を検討している国は、ほとんどの国が地下水がある環境を考えておりその対応がカギとなっています。地層処分で安全性を考える上で重要なのは、地下水の量よりも動きやすさです。地下水に放射性物質が溶けだして、地下水と共に運ばれて人間の生活環境まで出てくることが懸念として考えられます。地下水が存在しても動きがなければ、地下水に放射性物質が溶 けだしてもゆっくり広がるだけでほとんど動きません。もともと地下深部の地下水は、地上や地上付近の水の動きに比べ、非常にゆっくりとした動きになっています。これは地表近くに比べて深部地下の岩 は緻密ですき間が少ないことに加え(図1)、地表近くは地形の影響を多く受けますが、地下深くでは地形の影響を受けにくく地下水の動きが緩慢となります。

 
図1 地下の岩盤中の地下水の動き

地下水の動きの測定方法

一般的に深い地下の地下水の動きは非常に小さいので、地下での地下水の動きを直接測るのはかなり難しいですが、その測定方法の1つとして地下の岩が水を通しやすいか否かは測定できます。例えば、ボーリングで岩のサンプルを採取し、その岩の水の通しやすさ(透水性)を測定できます。また、ある程度広い範囲の流れを見るためには地下水にトレーサを入れ、下流側でそのトレーサを測定し、移動する時間や広がりを測定して地下水の動きを測ることができます。 地下水の動きの程度を直接的に測る方法として地下水年代の測定があります。地下水の中にはわずかですが放射性同位元素が含まれています。この含有量は、雨水等地表水は一定の割合ですが、地下に浸み込んで地表と隔離されると地下水中の放射性同位 元素は時間と共にその割合が変わっていきます。この変化の状況を調べることで、どれくらいの期間隔離されたかがわかります。

非常に古い地下水の存在

地下水の動きは動水勾配すなわち圧力差に依存します。これは、例えば地上では高い所から低い所へ水が流れる時に急な所ほど速く水が流れるのと同様に地下でも水圧の大きいところから小さいところへ圧力差に応じて流れます。したがって、平坦な場所の方が動水勾配が小さく、地下水の動きも小さいと言えます。 地下水の動きが小さい可能性がある場所は、平野部や沿岸部があげられます。これまでの測定例で北海道の幌延町や神奈川県横須賀市では100年以上滞留した非常に古い地下水が存在します。これは、雨や海水が地下に浸み込んでから100万年以上経過しており、その間地表とは隔離された状態にあることを示しています。この年月の間には日本の気候も大きく変動したと考えられ、特に気温の変化に伴い海水準すなわち海岸の位置も変化したと考えられますが、このような変化があってもこの地域の地下水の動きに大きな変化がなかったと言えます。

 
図2 沿岸部における地層処分のイメージ (地層処分技術WG報告書)

沿岸部について、沿岸の陸地部分に加え、沿岸の海底下も可能性のある場所に含まれます。これは図2に示したように、沿岸部の陸地から海底下に向けて斜めに坑道を掘り、海底下に処分場を設置する概念です。沿岸の大陸棚の範囲は地形がなだらかで地 下水の動きが小さいと考えられており、今後調査が進めば地下水が滞留している場所で非常に古い地下水の存在する可能性が高いと考えられます。

地下水に対する安全確保

地層処分の場所としては地下水の動きが小さい所が望ましいですが、日本ではどこでも地下水があることから、地下水が存在することを前提に安全確保を考える必要があります。 地層処分を考える上で重要なことは、深部の地下水が酸素を含まない還元性の地下水であることです。これは、地上で降った雨や海水が地下に浸み込んでいく過程で岩石中に含まれる鉱物等と反応して酸素が無くなり還元性になるからです。還元性の地 下水はものが溶けにくく、金属なども腐食しにくい性質を有します。したがって、地上では水があると様々なものの劣化が進みますが、地下ではその程度は小さく、人工的に構築したものでも長い間健全性が保たれます。国民会議だより35号で紹介したように地下に埋設された考古学出土品が長期間にわたって健全に保たれている事例も数多く見られます。 安全確保の仕組みで、図3に示した人工バリアは地下水対策の根幹を成すもので、この仕組みを説明します。まず高レベル放射性廃棄物であるガラス固化体は、国民会議だより第33号で紹介したようにガラスと放射性物質が一体になっており、ガラス自身が元々水に溶けにくいことから、たとえ地下水がガラス固化体に接しても放射性物質は容易に溶けだしません。

 
図3 人工バリアの概念

ガラス固化体中の放射性物質は時間と共に減りますが、比較的放射能が高い初期の期間は地下水がガラス固化体に接触するのを防ぎ、溶けださないようにします。このためにガラス固化体をオーバーパックという金属製の容器に封入します。その候補材料としては炭素鋼を中心に、銅やチタン等も検討されています。この容器で放射能が比較的高い初期の期間(千年程度)は放射性物質を閉じ込めます。酸素がない環境では鉄でも腐食しにくいので千年間程度は容器の健全性が維持できます。千年程度経過す るとガラス固化体中の放射能も処分した時の500分の1以下になり、発熱もほとんどなくなります。したがって、熱影響で地下水の動きが促進されることはありません。 オーバーパックが壊れた後を考えると、放射性物質の動きを小さくするために地下水の動きが小さい方が望ましいです。地下水の動きを小さくするために、オーバーパックと外側の岩盤との間に緩衝材を置きます。緩衝材としてはベントナイトという粘土が考えられていますが、もともと火山灰が変質してできたもので粒子が細かく水を通しにくいです。緩衝材は、このベントナイトを押し固めてすき間を無くし、非常に水を通しにくくしています。また、この粘土は水を吸収すると膨らむ性質があり、緩衝材として設置した時にすき間があっても地下水が来ると膨らんですき間を塞ぎます。したがって、処分した地下の岩盤ではある程度水の動きがあっても、緩衝材の中に水は浸み込んできますが水の流れはありません。また、ベントナイトは物を吸着する能力も高く、緩衝材に浸み込んだ水に放射性物質が溶けだしても、ベントナイトに吸着され、放射性物質が外へ出ていくのを抑制します。 地層処分で考えられる天然の環境は岩盤の種類や地下水の流動および地下水組成等が決まっているわけではなく多様ですが、人工バリアを構築することで廃棄物が置かれる環境を安定的な環境に保つことが可能で、長期間の閉じ込めを確実なものにすることが出来ます。

わが国での地層処分サイト選定

地層処分のサイトとしては地下水の動きが少なく長期間にわたって滞留しているような場所が好ましいですが、ある程度地下水の動きがあっても人工バリアを構築することで、長期間にわたって処分した放射性廃棄物から溶け出す放射性物質の動きを抑制し、その間に放射能が減るので、人間の生活圏へ影響がないように処分することが出来ます。このような場所は、沿岸部や沿岸の海底下を中心に、広く日本に地層処分が可能な場所は存在すると言えます。

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