地域発展の起爆剤-高レベル放射性廃棄物の最終処分場 第7回 社会への定着に向けて(7)海外事例に学ぶ(3)北米編

今回は欧州や日本と同様、最終処分地選定に取り組んでいる北米のアメリカとカナダの例を紹介します。 アメリカは高レベル廃棄物の最終処分は連邦政府の責任で実施します。連邦政府は候補地点をユッカマウンテンとしましたが、地元州政府の反対で中断しています。トランプ政権は計画再開を目指していますが、連邦議会の承認は得られていません。一方カナダは、地域社会とともに処分地を選定するとして、公募に応じた22 自治体のうち、現在5自治 体が9段階のプロセスの内、第3段階の現地調査フェーズに進んでいます。前回で紹介した欧州の事例も含め。地元理解を得て進めるには、地方自治体や地域社会が選定段階から参画することが重要なことが分かります。

対照的な米国とカナダ

1. 立ち止まる米国

米国は、高レベル放射性廃棄物は連邦政府の責任で最終処分を実施することとして、1982年に「放射性廃棄物政策法」を定めました。同法に基づいて1986年には調査地点3地点を決定しましたが、連邦議会は翌年に「放射性廃棄物政策修正法(1987年修正法)」を成立させて、調査地点をネバダ州ラスベガスの北西に位置するユッカマウンテンに限定しました。エネルギー省は、ユッカマウンテンの地質環境を念頭に置いた地層処分概念を開発するとともにユッカマウンテンに「探査研究施設(ESF)」を建設し最終処分地 とすることに向けて開発を進めました。その間、ネバダ州知事は、州の許認可権を行使するなどユッカマウンテンを処分場とすることに反対し続けました。しかし、1987 年修正法の定めに沿って、2002 年に上下両院はユッカマウンテンを最終処分地に指定しブッシュ大 統領の署名を以て最終処分場とすることが法律として定められました。地元メディアなどの調査では、ネバダ州民の80%は計画に反対 し2002 年に実施された全米世論調査では70%が賛成との結果が出ています。その間、国民の信頼の篤い全米科学アカデミーは、エネルギー省のリスク・コミュニケーションに対し改善勧告を行っています。2009 年に発足したオバマ政権は、ユッカマウンテン計画を中止したうえ、新たな最終処分政策を立案する特別委員会「米国の原子力の将来に関するブルーリボン委員会」(ブルーリボン委員 会)を発足させました。2011年にとりまとめられた報告書で、米国においても高レベル放射性廃棄物の最終処分は地層処分を採用する、将来世代に先送りすることなく最終処分計画を実施するために、国民が信頼できる強力な実施機関を直ちに設置する、国民および地域社会の参画を法的に保証したうえで最終処分地の選定は同意に基づき実施されることなど8項目の勧告を行いました。2015 年にはブルーリボン委員会の勧告に沿った放射性廃棄物管理法案が上院に提出されました。2017年1月に発足したトランプ政権はユッカマウンテン計画を復活させる政策を掲げていますが、計画を支持する地元のネバダ州ナイ郡と反対する州政府の動きを背景として連邦議会の承認を得るまでに至っていません。

2.挫折を乗り越えたカナダ

1977 年に使用済み燃料管理方策として地層処分を提言する報告書が公表され、翌年にカナダ原子力公社(AECL)がマニトバ州ホワイトシェルに深地層研究施設を建設するなど地層処分研究を開始しました。AECLは、国内外に研究施設を公開するだけでなく、インターンシップや奨学制度など社会貢献に努めました。 政府は、1989年にはAECLの地層処分概念について環境影響評価を開始し、1998年にAECLの処分概念は公衆の幅広い支持が得られていない、使用済み燃料の管理方策を検討する新たな機関の設置を勧告しました。2002年に核燃料廃棄物法を制定し天然資源省核燃料廃棄物局を設置するとともに「核燃料廃棄物管理機関(NWMO)」を電気事業者が設立しました。同法によって、NWMOは社会受容性、環境適合性、技術的・経済的合理性を備えた核燃料管理方策を3年以内に提案することおよび実施主体として核燃料廃棄物を管理することが役割であるとされています。 NWMO は、国連の環境計画担当の事務次長を務めカナダで高名なエリザベス・ダウデスウェル氏が初代理事長に就きました。 2005年までに勧告に向けて500名以上の自然科学・社会科学分野の専門家を含め18,000名以上が参加して精力的な対話活動を実施し、NWMO は、地域社会とともに処分地選定を実施するとする最終報告書「進むべき道の選択:カナダの使用済み燃料の管理」を公表しました。2007年に政府は、NWMOがとりまとめた提案「段階的な核燃料廃棄物管理(APM)」を承認しました。APM は、60年程度は原子力発電所における貯蔵あるいは最終処分地における地下浅部における集中貯蔵、最終的には地層処分を実施するとしています。廃棄物を埋設する地下施設は、およそ深度500 米に設置されるが、その地上部は公衆もしくは公共の利用が可能であるとしています。 NWMOは、2008年に処分地の選定計画案を取りまとめ、市民パネル、地方自治体などとの対話活動を経て2010年に原子力立地州に焦点を絞った9段階からなる処分地選定手続きを開始しました。公募方式に応じた自治体は、第6段階までは処分地選定手続きから撤退できるとしています。 処分地選定にあたっては、地域社会の福祉や生活の質を高めることをNWMOの行動原則で定めており、決めたことに理解を求めるのではなく、地域社会との協働(パートナーシップ)作業で進める考えです。 2012 年までに第1段階(関心表明)に22自治体が公募に応じましたが、2017年12月にはいずれもオンタリオ州の5自治体が、除外すべき条件がないことから第3段階第2フェーズ(現地調査)に進んでいます。

図1 カナダにおける処分地選定の状況 (https://www2.rwmc.or.jp/nf/?p=21389、2017 年12月)

その他の国々の最近の状況

その他の国々の最近の状況を第2図にまとめておきます。今回で、3回に分けて連載しました「社会への定着に向けて-海外事例に学ぶ-最終処分地選定の状況」を終了します。次回からは「それはなに?どんなもの」、「どうするの?技術は安全ですか?」を6回に分けて連載します。

第2 図 海外諸国の状況(資源エネルギー庁(原環センター)資料を筆者が編集)

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