地域発展の起爆剤:高レベル放射性廃棄物の最終処分場 第2回

このたび、国から「科学的特性マップ」が提示されました。このマップは、日本の地層、火山、活断層などの自然現象、資源開発の可能性、海岸からの距離などを考慮して最終処分場として可能性があると判断された地域を示しています。
マップの公表により国民の間に①考えるきっかけとなる、②当事者意識が生じてくる、③地域格差がないことが分かる、ことが期待されます。そこで公表後の国民・地域の参加について考えます。

科学的特性マップの提示と国民・地域社会の参加

高レベル廃棄物に関する日本の法律(最終処分法)では、最終処分基本方針に基づいて政府が施策を進めることとしています。2015年に閣議決定された最新の基本方針で、科学的特性マップについて触れていますが、趣旨をまとめると以下のようになります。3番目の項目に記載されている総合的施策を展開して行く中で地域発展の起爆剤が生まれてきます。

  • 最終処分法で規定する文献調査をはじめとする処分地選定に先立ち、地下の科学的な特性が地層処分に適さないところや輸送面で好ましい地域を全国地図(マップ)で示した「科学的特性マップ」を国が提示すること
  • 提示した科学的特性マップを活用して多様な価値観を持つ人々が参加する対話活動を通じて国民や地域社会が最終処分について情報共有すること
  • 対話を積み重ねる中で地域の発展を支援する総合的な施策を展開すること

最終処分問題に関わってきていない多くの方たちにはこのような進め方に違和感があるようです。「候補地を早く決めて、立地活動をなぜしないのか」との疑問があるのです。
政策に批判的な人たちからは、「既に候補地を決めているのではないか」との声を聞きます。いずれも、これまでに多くの施設の立地は、候補地先にありきで進められて来たことと無関係ではないと思います。

最終処分基本方針は、「どのようなところが地層処分に望ましいのか」、「日本では地層処分に適する場所はないのではないか」と言う問いや疑問に応え、国民や処分地選定調査に応じても良いと考える地域住民にしっかりとした科学的な情報を提供し、対話を通じて最終処分について情報を共有する役割を科学的特性マップに求めています。
別項で述べる予定ですが、2000年に最終処分法が制定されて以来、国およびNUMOは最終処分法に沿って最大限の努力を重ねてきたといえます。しかし、既に多量の高レベル放射性廃棄物が累積しているうえ、処分地選定が進展する目処が立たないままに時間が過ぎてきたことは読者の皆さんがお分かりの通りです。
このような状況から安倍政権になってようやく、内閣官房長官を中心とする最終処分関係閣僚会議を設置(2013年12月)し新たな取り組みを進めることになりました。2015年の最終処分基本方針はその具体策です。

最終処分地選定で社会的・政治的に多くの困難に直面していた欧米諸国では、21世紀に入って大きな進展を見せ始めています。それは「押しつけられた」というそれまでに施設の立地における地域住民の思いからの決別をはかる政策を取り入れたからと考えられるのですが、新たな最終処分基本方針は、欧米の最終処分政策とも調和しています。それは、時間はかかるかもしれないが国民や地域住民が対話の場を通じて最終処分問題の解決に向けた意思決定プロセスに参加することを促す「急がば回れ」政策といえます。

総合資源エネルギー調査会における審議や度重なる全国規模のシンポジウムなどを経てこのたび国が提示した科学的特性マップは次の図1に示される基準・要件に沿って作成されました。


図1 科学的特性マップを作るための要件と基準からのマップ作成要領

科学的特性マップの要件・基準は、日本の地層処分概念が求める火山や活断層など自然現象の影響がおよぶ範囲や資源開発の可能性などを専門的な判断に基づいて図1のように定められました。

科学的特性マップは、処分地選定において求める科学的特性を既に公開されている全国データや専用道路が必要な重量物の輸送の観点から日本地図を4通りに色分けしています。「好ましくない」とは処分場の安全に影響があるようなことが将来に起こりうる地域(地図上でオレンジあるいはシルバーに色分け)であり、「好ましい」とは処分場の安全に影響があるようなことが将来起こらないとされる地域(地図上でグリーンに色分け)を指します。
緑色の地域でさらに輸送の利便性があるとして沿岸海底下や島嶼を含めて海岸から20㎞を目安とした地域を特に「グリーン沿岸部」としています。

科学的特性マップは、第6回最終処分関係閣僚会議の了承を経て資源エネルギー庁のホームページでデジタルマップとして公表され多くのメディアで報道されました。科学的特性マップは、今秋にも本格化する国やNUMOの説明会や対話活動に使用される予定です。

科学的特性マップは、右のQRコードからダウンロードすることでどなたでもご覧になれます。
(資源エネルギー庁資料(2017)より)

「最適地」問題

日本の地層処分概念は、スウェーデンやスイスなどと同様に人工バリアおよびその周辺-ニア・フィールド-に放射性物質が留まっている間に放射能が自然に消滅していく性能に高い安全性を求める概念です。

日本が地層処分研究開発を始めた1976年から1980年代後半までは、地下深部のいわゆる天然バリア-ファー・フィールド-に高い安全性を期待する概念でした。ファー・フィールドの性能に高い安全性を求める場合には処分に最適な地下深部を探すことが必要です。
今でも処分地の選定は最適な地下深部を探すことであると考える人々は、今から30年ほど前までの地層処分概念を描いているからではないかと思います。現在の処分地選定手続きは、厳しい安全要件や基準を満たす天然バリア性能を有する最適地を探すという手続きではありません。


図2 高レベル放射性廃棄物の輸送状況
(原燃輸送(株)ホームページ:(http://www.nft.co.jp/equipment/equipment2.html)
(資源エネルギー庁資料(2017)より)

科学的特性マップの提示後の取り組み- 国民・地域社会の参加

科学的特性マップの提示を機に国およびNUMOは、図3のように国民および地域社会における対話活動を実施することにしています。国は、大都市部を含めた全国的な対話活動、自治体への緊密な情報提供や地域支援のあり方に関する検討などに取り組み、地域における検討が着実に進められる環境を整える一方で、NUMOは、「グリーン沿岸部」を中心とした重点的な対話活動にきめ細かく取り組むことにしています。

それは、先に述べた科学的特性マップの位置づけの第2項および第3項に関わる核心部分の政策を具体化することになります。地域を特定することが多かった今までの多くの立地活動とは異なり、グリーン沿岸部という多くの自治体が関わる地域における活動はほとんど経験がありません。
しかし、そのような活動においても、地域住民に最も近い存在で住民の信頼を得ていると思われる自治体が最終処分事業に関心を持つことが不可欠であると考えられ、自治体が多様な価値観を持つ住民の参画する「対話の場」の設営に関与することが望まれます。
一方、国民が最終処分技術や政策に信頼や期待を寄せていることが、自治体の活動を後押しすることとなります。グリーン沿岸部に入らない地域の皆さんは、サッカーで言えば「サポーター」としてスタジアムで応援する大切な役割があるのです。

2007年から10年近く最終処分問題を学習する「地域ワークショップ」が開催され500名以上にのぼる地域のファシリテータを中心として5000名の地域住民が参加してきました(崎田裕子、全国シンポジウム「いま改めて考えよう地層処分」(2017年5月))
対話の場においては、このような地道な「草の根」活動に参加した全国各地にお住まいの皆さんの活躍が不可欠であることは申し上げるまでもありません。
次回は「⑫ 社会への定着に向けて(3)処分地選定に向けたこれからの道のり-参加と信頼」を掲載します。

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