地域発展の起爆剤―高レベル放射性廃棄物の最終処分場 第9回 どうするの? 技術は安全ですか?(1)最終処分の目標

地層処分の最終目標 高レベル放射性廃棄物処分の最終目標は、以下のように要約されます。 ・長期間にわたって放射性廃棄物を閉じ込め人間環境から隔離する ・人間が管理することなく長期間の安全性を確保できる このような目標に対して、もっとも適した処分方法として地層処分が各国で選ばれていますが、その経緯や考え方を紹介します。

最終処分問題の発生

高レベル放射性廃棄物の最終処分をどうするかは、米国の原子力開発当初からの問題でした。原子爆弾開発で軍事用原子炉の使用済み燃料の再処理で発生した廃液は、当初米国のハンフォードで炭素鋼製のタンクに貯蔵されていましたが、1950年代からたびたび漏えいを繰り返していました。1955年9月に米国プリンストンにおいて米国科学アカデミーが主催した放射性廃棄物の処分に関する会議が開催され、この会議が世界で初めて高レベル放射性廃棄物処分を検討した会議と言えます。この会議では、放射性廃棄物を陸地に処分する場合の可能性とそのためにどのような研究が必要かが検討され、放射性廃棄物を岩塩層に処分することが有望であると結論付けられました。この検討において、岩塩層が地下水と接触することなく、その可塑性からすき間も塞いでくれることで適した処分方法であるとされ、その他の岩盤中に処分する方法と比較しても望ましい方法と評価されました。 廃棄物を環境に捨てるのは当然であると考えるのが常識であった当時の社会では、画期的なものであったと言えます。当初から人間の管理には限界があり、人間の管理に頼らない方法が検討されたと言えます。

日本における検討

わが国では、1962年(昭和37年)に原子力委員会の中に設置された廃棄物処理専門部会で最初に最終処分に関する検討が進められました。この時の検討では、生活環境への汚染はできる限り避けることが望ましいとされ以下の二つの方式が望ましいとされました。 ①容器に入れ深海に投棄すること ②放射性廃棄物を人が立ち入ることが不可能なかつ漏えいの恐れがない土中に埋設したり、天然の堅牢な洞窟あるいは岩石層に入れること この中でも②のような条件を満たす場所はわが国では選定が難しいと考えられ、深海への投棄が最も可能性のある最終処分方法と考えられました。ここでは、閉じ込めという概念はまだ明確ではなく、人間環境から隔離し、影響がない所へ処分するという考え方と考えられます。

国際的な意見集約

各国で原子力の利用が本格化していく中で、放射性廃棄物処分について包括的な検討がOECD/NEAで各国の専門家を集めて1974年から進められ、1977年に報告書にまとめられました。この報告書において、自らのエネルギー需要を原子力に頼る現世代の責任は,残存する廃棄物が将来世代の重荷にならないような技術的回答を見出さなければならないとして、放射性廃棄物の最終処分について以下のようにまとめられました。 ・貯蔵は,回収する意図を持って廃棄物を措置することであり,継続的な監視を要する一時的な手段であると考えられ、制度的管理を必要とせず事後の処置なしに人間環境から隔離できる手段が望ましい ・処分オプションの中で安定した地層中へ閉じ込めることが最も有望な方法と考えられる ・地層処分に適していると考えられる地層として、岩塩層ばかりでなく粘土層や硬岩層も候補となりうる この報告書以降も倫理的側面を含め、様々な検討が国際機関等でされてきましたが、処分の基本原則としては、大筋以下の点に集約されます。 ・将来世代への負担を最小にするために、現世代は高レベル放射性廃棄物を安全に処分しなければならない ・処分は将来世代の介入に頼って長期の安全性が確保できるような方法ではいけない

放射性廃棄物処分の安全原則

国際的な検討を経て、国際原子力機関(IAEA)で原子力および放射線の利用における基本安全原則が策定さ れ、「人および環境を電離放射線の有害な影響から防止すること」を基本安全目的として、安全に対する責任等が定められました。基本原則に則り、個別の要件が定められましたが、放射性廃棄物処分の固有の目標としてIAEAの安全基準SSR-5(放射性廃棄物の処分)では以下のようにまとめられています。 ・放射性廃棄物を閉じ込めること ・放射性廃棄物を人間の生活環境から隔離し、偶発的な廃棄物への人間侵入の可能性とすべての可能性のある影響を実質的に減らすこと ・放射性廃棄物から人間の生活環境への放射性核種の移行を常に抑制し、減らし、遅らせること ・処分施設からの放射性核種の移行により人間の生活環境へ到達する量が、それに伴い起こる放射線学的影響を常に許容できる程度に低くすること この目標は、放射性廃棄物の完全な閉じ込めや永久に隔離することを期待するものではなく、また、長期の安全性は人間が監視や管理する制度的管理に専ら依存しないこととされています。 処分という用語は、放射性廃棄物の回収を意図せずにある施設または場所に廃棄物を定置することです。これは、管理や監視を必要としない受動的な人工および天然の特質を用いて廃棄物を閉じ込め、人間の生活圏から隔離することです。しかし、回収が意図されていないことを示すものであって、回収が不可能であることを意味するものではありません。

図1 IAEA の安全原則と安全基準SSR-5

日本の最終処分目標

1972年(昭和47年)にロンドンで「海洋汚染防止に関する国際会議」が開かれ、「廃棄物その他の投棄による海洋汚染の防止条約」(通称ロンドン条約)が採択されました。このため、高レベル放射性廃棄物の海洋投棄も禁止されることとなりました。これを受けて、1976年(昭和51年)に原子力委員会は、これまでの深海に放射性廃棄物を投棄することを最も可能性のある方法としてきた方針を転換し、高レベル放射性廃棄物の処分については地層処分に重点を置き研究開発を進めることとしました。具体的な目標としては、1989年に原子力委員会で図2のような基本概念を提示しました。

図2 地層処分の基本概念

その後の研究開発を経て2000年に「特定放射性廃棄物の最終処分に関する法律」が制定され、この中で「最終処分」とは、地下三百メートル以上の深さの地層において、特定放射性廃棄物(高レベル放射性廃棄物)及びこれによって汚染された物が飛散し、流出し、又は地下に浸透することがないように必要な措置を講じて安全かつ確実に埋設することにより、最終的に処分することとされています。また、国の定めた最終処分に関する基本方針において、最終処分は高レベル放射性廃棄物のまわりに人工的に設けられる複数の障壁(人工バリア)と、高レベル放射性廃棄物に含まれる放射性物質を固定する働きを備えた地層(天然バリア)とを組み合わせることで高レベル放射性廃棄物を人間環境から隔離し、安全性を確保する「多重バリアシステム」により実施するものとしています。これは、本来閉じ込め機能を有する天然の地層の働きをさらに確実なものとするために、人工的な障壁で比較的放射能の高い期間は物理的に閉じ込め、さらに放射性物質が移動しにくい環境をつくり出すものです。 また、基本的に最終処分に関する政策や最終処分の可逆性を確保することとし、最終処分施設の閉鎖までの間は廃棄物の搬出の可能性(回収可能性)を確保することとしています。したがって、長期にわたっては人間の管理によらないで安全を確保しますが、最終処分場を閉鎖するまでは、廃棄物を処分場に運び込んだ後でもその時点での最良の処分方法を選択できるように考えています。

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