国民会議だよりの連載「地域発展の起爆剤-高レベル放射性廃棄物の最終処分場」は、先回に社会への定着 に向けて(3)「処分地選定に向けたこれからの道のり-対話を通した参加と信頼」として、最終処分計画のような社会の意思決定が難しい課題を解決するためには国民や地域社会の人々が安心して対話に参加できる環境が用意されることがその第一歩であり、そのためには国民や地域社会から信頼を寄せられる政策や事業の進め方が大事であると述べました。今回は、このような信頼を前提として、社会への定着に向けて(4)として最終処分基本方針の柱である「地域の発展を支援する総合的な施策を展開すること」について解説します。
事業に貢献する地域への敬意や感謝の念を国民が共有
東洋町事件がおきた要因の一つは最終処分事業に貢献する地域への敬意や感謝の念が国民の間に共有されていなかったことがあげられます。「科学的特性マップ」が公表されたあとも地層処分に批判的な市民が首長に賛成か反対かを迫る動きが出ていると言います。最終処分基本方針は、「処分地選定において事業の実現が社会全体の利益であるとの認識に基づき、その実現に貢献する地域に対し、敬意や感謝の念を持つとともに、社会として適切に利益を還元していく必要があるとの認識が、広く国民に共有されることが重要である」としています。国民がこのような認識を持つためにも、最終処分について情報を共有することから始めなければなりません。
地層処分の本当の姿を知る
地層処分技術は、先回までに述べたように情報が専門家に偏っている「情報の非対称性」が著しい技術です。しかし、一方で「高い放射能」、「ガラス」、「地層」、「処分」など字面からは、「危ない」、「怖い」など一人ひとりがマイナスのイメージを連想しやすい技術ではないかと思うのです。地層処分技術は、安易な対策を例える際に使われる言葉である「臭いものに蓋をする」技術であると思われているのです。ところが、地層処分技術はその「危ない」、「怖い」などを正面から捉えて対策を施す技術であることが、これまで地層処分を学習する機会に参加された多くの皆さんはお分かりでは ないかと思います。
国民の知識レベルを上げる
国やNUMOは、科学的特性マップを活用して国民や地域社会における多様な価値観を持つ人々が参加する対話活動に取り組むことになりました。この対話活動は、科学的特性マップについて参加者が話し合う意見交換会を都道府県で開催することから始められています。意見交換会に参加する人々には、今までのシンポジウムなどと同様に「初めて参加する」人が多いだけでなく、声だかに反対を唱える人もいます。全国や地域において対話を積み重ねることで最終処分について家族や友人と話し合うことのできる人々が増えていきます。事実を知ることが誤解や風評などに惑わされることのない一人ひとりの考えを持つ上で重要ですので、国やNUMO は、メディア、SNS等を活用した国民への情報提供に努めるとと もに、国民もシンポジウムや小規模な勉強会(ワークショップ)、幌延町や瑞浪市に整備されている原子力機構の研究施設を利用した深い地下を体感する見学会で地層処分技術を知る機会をできるだけ多く持って欲しいと思います。 最終処分地選定に協力する地域に対する国民の敬意と感謝の念が、処分地選定段階だけでなく処分場の建設・操業段階においても継続的に維持されていなければなりません。そのためには、学校教育だけでなく生涯学習の機会を国民に提供していく政策が大事ではないかとの声が学習会でも上がっています。学校教育は、最終処分問題を含むエネルギー教育を充実させなければなりません。 住民が身近に地層処分に関わる情報を入手し学習する環境が不十分であるとの意見が多くあります。風評が起こりやすいこのような状況が、最終処分についていたずらに不安と誤解を与え処分地選定を困難にしている要因になっています。国民レベルで地球温暖化対策を進める地球温暖化防止活動センターような足腰のしっかりとした取り組みが、高レベル放射性廃棄物の最終処分においても必要ではないでしょうか。
地域における対話活動
一方、グリーン沿岸部などの地域においては「対話の場」が造られることが望まれます。人々は、一人ひとりが異なる意見を持っています。多様な意見を持つ住民が参画する図1のような「対話の場」が自治体の協力で設置され、住民間の情報の共有や継続的に対話を進めるセンターとして活用されることになります。多様な意見を持つ住民をまとめ上げるうえで、力量-リーダーシップを持った住民が現れることが不可欠ではないかと言われます。
第1図 「対話の場」のイメージ(総合資源エネルギー調査会(2015)
地域の持続的な発展を支援する総合的政策-具体化 は「対話の場」で
最終処分基本方針では、「最終処分事業は、長期にわたる事業であることから、安定的かつ着実に進めていくためには、概要調査地区等に係る関係住民との共生関係を築き、あわせて、地域の自立的な発展、関係住民の生活水準の向上や地域の活性化につながるものであることが極めて重要である。このために も、こうした地域に、国民共通の課題解決という 社会全体の利益を持続的に還元していくことが重要である。そのため、国は、文献調査段階から、電源三法(電源開発促進税法、特別会計に関する法律、発電用施設周辺地域整備法)に基づく交付金を交付するほか、地域の関心や意向を踏まえた上で、処分地 選定調査の進展に応じ、当該地域の持続的発展に資する総合的な支援措置を関係地方公共団体と協力して検討し講じていくことが重要である」と述べられています。 また、最終処分基本方針は、事業が処分地選定に協力する地域の自立的な発展につながること、および国民社会全体の利益を還元するために当該地域の発展に向けて自治体と協力して国が支援を行うことを明記しています。福島・国際研究産業都市(イノベーション・コースト)構想は、最新の事例として注目されます。(http://www.pref.fukushima.lg.jp/site /portal/innovation.html) 高齢化、人口減少などを迎え、多くの地域が将来像を描けないでいる状況の中で「札束で頬をはたく」ように最終処分事業を押しつけられるのではなく、地域社会自らで地域発展の具体像を描き、そこに最終処分事業を取り込む-最終処分事業を地域発展の起爆剤に利用することを考えてもいいと思います。どのような 具体像を描くかは、自由であり「対話の場」における自治体や地域住民の力量にかかっています。
文献調査段階などにおける支援
最終処分法が制定されてまもなく、国は最終処分事業に協力する地域の「地域振興プラン」(資源エネルギー庁・地域振興構想研究会(2002 年)をとりまとめました。そこでは、処分地選定調査、選定後の施設建設・操業に伴う税収、地域における資材の調達、雇用など最終処分事業が持つ経済効果とともに第2図のように地域社会が地域の発展に向けた具体像を描く上で参考となる国内外における事例をもとに行政サービス・生活基盤、産業関連および医療・福祉関連に分類したメニューを示しています。
第2図 処分事業全体を通じた地域発展メニュー(資源エネルギー庁(2002)
地域の発展に向けた具体像を実現していくためには、財源措置が必要です。これまでに、第3図のように文献調査段階および概要調査段階における交付金制度が用意されています。精密調査段階以降については最終処分基本方針に示される地域発展に向け た財政措置が具体化される見通しです。次回から2回に分けて「海外事例に学ぶ-最終処分地選定の状況」を解説します。
第3図 電源立地地域交付金制度による文献調査・概要調査段階の地域支援(総合資源エネルギー調査会(2014)