地域発展の起爆剤:高レベル放射性廃棄物の最終処分場 第3回

社会への定着に向けて(3)処分地選定に向けたこれからの道のり-対話を通した参加と信頼

国民会議だよりの連載「地域発展の起爆剤-高レベル放射性廃棄物の最終処分場」は、先回に社会への定着に向けて(2)「科学的特性マップの提示と国民・地域社会の参加」として科学的特性マップについて解説しました。 第3回は社会への定着に向けて(3)として最終処分基本方針で言っている「科学的特性マップを活用して多様な価値観を持つ人々が参加する対話活動を通じて国民や地域社会が最終処分について情報を共有する」ための道のりの第一歩を国はどのように取り組んでいこうとしているのか考えていきたいと思います。

国が描くこれからの道のり

科学的特性マップの公表に先立ち平成29年7月28日に開催された第6回最終処分関係閣僚会議の後に世耕弘成・経済産業大臣は「最終処分の実現に向けた重要な一歩であり、長い道のりの最初の一歩だ。マップの提示を契機に、全国各地できめ細かな対話活動をしたい」と述べたことを連載第2回で紹介しました。 本年9月に実施した自治体説明を皮切りに国・NUMO共催による「科学的特性マップに関する意見交換会」が年度内に都道府県を一巡すること目指して10月から全国で精力的に開催されています。この意見交換会は、既に会合に参加された方にはご高承の通り100名程度が参加して、国およびNUMOによる最終 処分についての説明とそれに引き続く小グループに分かれた意見交換(いわゆるワークショップ)の場が作られています。この意見交換会は、最終処分基本方針や世耕経産大臣が述べている対話活動の第一歩とみられます。国は、国民や地域社会における対話の努力を積み重ねで将来的に調査を受け入れるいくつかの地域がでることを期待しています。それでは、「科学的特性マップに関する意見交換会」につづいて、国はどのような道のりを描いているのでしょうか。 第6回最終処分関係閣僚会議は、資源エネルギー庁から提出した今後の国やNUMOの取り組み方針を了承しました。この方針の要点は次の通りにまとめられます。また、地域対応・国民理解の部分の道のりを図1に示します。

・NUMOは、科学的特性マップで提示したグリーン沿岸部を中心に地域社会で地層処分事業についてきめ細かな対話活動を行うこと

・資源エネルギー庁は、総務省の協力を得て地層処分政策について都道府県や基礎自治体への情報提供を行うとともに電力消費地を含めた全国的な対話活動を通じてNUMOの活動をバックアップすること

・資源エネルギー庁は、福井県などの要望が強い原子力発電サイトに保管されている使用済み燃料の状況や中間貯蔵施設の整備の重要性について地層処分政策と一体となった対話活動を行うこと

・NUMOが地層処分事業を担う技術集団として社会の負託に応えるために、地層処分技術が蓄積している原子力機構からの技術能力の継承、人材育成に取り組むこと

・最終処分地選定など各国に共通する課題について、国際協力を通じて各国の経験を学習すること

第1図 国・NUMOの描く道のり(第6回最終処分関係閣僚会議(2017年7月)資料を編集)

「このプロセスを経ずして自治体に調査の受入を要請することはない」

国民や地域社会と対話活動を進めることを中心とする最終処分関係閣僚会議の方針は、「このプロセスを経ずして自治体に調査の受入を要請することはない」(第4回最終処分関係閣僚会議(平成27年10月))としているように、かつての東洋町事件のように「札束で頬をひっぱたく」などの橋本大二郎・高知県知事(当時)による発言で処分地選定調査に関心を持つ地域の活動を阻害することがあってはならないという国の強い意志が現れています。対話活動の目的は、「事業の実現が社会全体の利益であるとの認識に基づき、その実現に貢献する地域に対し、敬意や感謝の念を持つとともに、社会として適切に利益を還元していく必要があるとの認識が、広く国民に共有されることが重要である」とする最終処分基本方針に沿っていることは言うまでもありません。 NUMOは専門家を招いた勉強会や原子力機構が幌延町や瑞浪市に整備してきた深地層の研究施設などの見学会を実施していますが、地域社会との草の根的な対話活動に役立つものと考えています。

国民や地域社会の参加

2000年に最終処分法が制定されて以来15年以上を経ても最終処分法で定める文献調査ができませんでした。処分地選定という最終処分政策の当面最も重要な一歩が15年以上進まなかったことをうけ、国は今般の「対話活動」政策に踏み切ったといえます。 EU諸国は、20世紀末頃に顕在化した狂牛病(BSE)問題など、人々の間で色々な考え(価値観)があって国民や地域社会の意思決定が困難な政治課題について国際共同研究(TRUSTNET、リスクガバナンス研究)に取り組みました。その結果、それまでのようなトップダウン型ではなくボトムアップ型とでも言うべき意思決定過程に人々が参加する方法が、このような政治課題を社会の支持、協力を得て解決に導く最適な政策手法であることが明らかになりました。この意思決定手法は、「参加・対話・協力」型(engage, interact and co-operate、適切な訳語がないので筆者が意訳)と言われます。この手法は、やはり解決が困難な政治課題となった高レベル放射性廃棄物の処分地選定問題の解決に向けて欧州諸国やカナダで取り入れられ、最終処分政 策が大きく進展することになります。

大きな課題-社会が政策や事業に対話を通じて信頼を寄せることができるか

高レベル放射性廃棄物問題とは、今までの産業技術では経験に乏しい生活環境や地質環境の変化が関わる将来の長い時間や日常あまり経験しない深い地下を利用する新たな科学技術を社会が利用する試み-「トランス・サイエンス」(注1)の領域の技術に対する国民や地域社会の不安と捉えなければなりません。これまでの社会科学的な知識では、このような技術の利用に向け社会の価値観が共有されないと、国民、地域社会に定着することが難しいとされています。この領域にある科学や技術の利用は、専門家の判断だけで決めるのではなく国民や地域社会が意思決定プロセスに参画をしたうえで政治が決断することを求めています。先に述べた、「対話活動」政策は、「参加・対話・協力」型の意思決定プロセスの具体化と見られ、処分地選定を始め最終処分政策に社会が信頼を寄せる第一歩となるものと期待されます。 経済学では商品の売り手側が買い手側より多くの情報を持っていることを「情報の非対称性」と呼んでいます。高レベル放射性廃棄物の地層処分技術についての情報は、その分野の専門家に偏りがちで情報の非対称性が著しい技術です。地層処分技術について多くの誤解があるのは、情報の非対称性が著しいために人々に正しい情報が本質的に共有され難いことが理由としてあげられます。情報の非対称性が著しいとされている商品の売買などでは、情報公開や品質保証など情報の非対称性を緩和するための制度が社会に導入されています。先進医療分野では、インフォームド・コンセントが知られています。しかし、このような制度が情報の受け手側に安心して受け入れられるためには、情報の送り手側に「誠実性の信頼(trust)」とともに「専門性の信頼(confidence)」が求められます。地層処分においても、社会が信頼(trust)を寄せることができる国の政策とともに経営や技術に信頼(trust およびconfidence)を寄せることができる実施主体の存在が不可欠ですが、情報の非対称性を緩和する仕組みを整えることも重要です。「参加・対話・協力」型の意思決定手法をより優れた手法と する、一度にすべてを決めるのではなく段階的な意思決定を進める仕組み、技術と社会の仲介役(メディエーター)制度の導入なども情報の非対称性の緩和に役立つものといえます。次回は、社会への定着に向けて(4)「地域発展計画に組み込まれた最終処分場」を掲載します。

(注1)科学に問うことはできるが、科学だけでは答えることのできない様な問題について、物理学者のA. Weinberg 氏がトランス・サイエンスと名付けた。例として、価値観の問題が関係する生命倫理やエネルギー環境問題が挙げられる。


図2 科学的特性マップ(4色で適地を塗り分けている)


科学的特性マップは、下のQRコードからダウンロードすることでどなたでもご覧になれます。(資源エネルギー庁資料(2017)より

 

 

 

 

ページの先頭に戻る↑