地域発展の起爆剤:高レベル放射性廃棄物の最終処分場 第1回

連載に当たって

「トイレのないマンション」と揶揄される原子力発電、そのトイレにあたる原子力発電に伴い発生する高レベル放射性廃棄物の最終処分場問題の背景には多くの誤解があります。その誤解に触れながら最終処分場問題の解決に向けた道筋を皆さんと学習します。高レベル放射性廃棄物の最終処分場は、地域発展の起爆剤となる力を秘めた事業であることを考えていきたいと思います。 生活のごみや産業廃棄物の最終処分場は、しばしば人目をはばかるような汚い施設のように思われています。それでは、高レベル放射性廃棄物の最終処分場は、どんな施設なのでしょうか。本当に汚い施設のイメージのままで良い のでしょうか。 高レベル放射性廃棄物は、原子力発電で発生したごみ-廃棄物です。高レベル放射性廃棄物対策が人々から信頼を得ない限り原子力発電 はおぼつかなくなるでしょう。それでは、人々が信頼を寄せることのできる対策とはどのよ うなことなのでしょうか? 「国民会議だより」では、これから最終処分場問題を連載する予定です。今回は連載のあらましをご紹介します。

それはなに?どんなもの?

「高レベル放射性廃棄物は再処理をしなければ発生しない」は誤解です。原子力発電をすれば必ず発生するのです。今までにおよそ25,000 本のガラス固化体に相当する使用済み燃料が発生しています。 「高レベル放射性廃棄物はガラス瓶に液体の放射能を詰めたもの」は誤解です。地層処分をする高レベル放射性廃棄物は固体の「ガラス」です。放射性物質はガラスの成分として閉じ込められています。液体をガラス瓶に詰めたものではありません。 「高レベル放射性廃棄物の放射能はいつまでもなくならないので永久処分が必要」は誤解です。放射能は時間とともに低減(1,000 年で99.9 %が消滅)します。これは、毒性が永久に続く化学廃棄物などとは異なる性質であり、永久処分は不要です。

どうするの?-技術、制度、社会に定着する仕組み

〇技術は安全ですか?

最終処分の目標:長い時間、人間の生活環境から安全に隔離

「地層処分より地上の方が安心」は誤解です。 安心を考える前に安全について考えてみませんか。「長い時間、人間の生活環境から安全に隔離」する最終処分の目標からは、何百年もの間、地上で保管しておくより安定な地下深部を利用する地層処分が現実的で、優れた安全な技術であることがわかっています。 「日本列島は火山や活断層だらけで安全な地層処分を実施できる地域はない」は誤解です。 私たちは断層活動や火山活動の原因であるプレート運動に起因する災害をしばしば経験しています。「プレート運動に関連する断層活動や地殻変動は、将来10万年程度であれば現在の運動の傾向が継続する可能性は高い」(総合資源エネルギー調査会(2017)など)火山や活断層の近傍などでない地域は、ほとんど変動がなく安全な地層処分を実施できる可能性を持っている地域であるということができます。 「日本は地下水が多く、地下水によって生活環境が放射能で汚染される」は誤解です。高レベル放射性廃棄物の放射能が地下水によって生活環境を汚染しないようにする技術が地層処分技術です。高レベル放射性廃棄物は、放射能を地下水に溶けにくくするためにガラスの成分に取り込んだガラス固化体にします。地層処分技術では、ガラス固化体の外側を地下水にさびにくい金属(例えば鉄)、さらにそれらの外側は地下水を通しにくい粘土で包み込む「人工バリア」で地下水対策を施します。 「原子力発電を続ければ、狭い国土の日本では高レベル放射性廃棄物の置き場がなくなる」は誤解です。処分場の面積(ガラス固化体4万本収納)は地下施設6-10 平方キロおよび地上施設1-2平方キロです。高レベル放射性廃棄物の発生量は僅少です(1年で一人あたり5グラム程度)。ガラス固化体(プロパンガスの7㎥のボンベのサイズで重量はおよそ500㎏)は、1年間に1,000 本程度の最終処分を実施する必要がありますが、一つの処分場でおよそ40年間の操業が可能であるため置き場がなくなることがないことがわかると思います。 沿岸海底下の岩盤中に地下施設用地を求めても良いのです。

〇安心できる制度ですか?

最終処分法-最終処分政策の実施に向けた法制度

高レベル放射性廃棄物は長い時間、人間の生活環境から安全に隔離されなければなりません。高レベル放射性廃棄物は、原子力発電に伴って発生するのですが、熱を発するのでまず地上の施設で地層処分に向けて「熱冷まし」をします(冷やします)。発生してから数十年経って、十分冷えたところで地下深部に定置します。 最終処分事業には長い年月を要します。そのために日本では2000年に世界に先駆けて透明性の高い処分地選定手順、発生者責任の原則のもとに安定に最終処分事業を実施する仕組みを法律で定めました。最終処分法では、最終処分基本方針など政策は国、事業実施主体は発生者が設立すること、発生者が処分費用を拠出することなどを定めています。法により事業実施主体としてNUMO が設立されました。 「文献調査を認めれば、最終処分地になる」、との根強い懸念が地域にあります。文献調査で処分地に適さないとわかっても、それを隠して最終処分地に適しているとして事業を進めることはありません。この懸念を放置したまま処分地選定を進めようとすれば、地域住民の矢面に立つ自治体の長の負担がきわめて大きいと考えられました。後述するように、文献調査に先立ち国が前面にたって新たな取り組みを始めることになり、疑念の解消に努めています。

社会への定着に向けて

「臭いものにふた」をすると言います。人目につかないところに穴を掘って高レベル放射 性廃棄物を埋めるのではないかというのです。 地層処分技術に対する誤解、処分地選定や深地層の研究施設に対する懸念や疑念という最終処分についてのマイナスのイメージをプラスのイメージに変えなければなりません。 国民の皆さんに訴求をめざすには、技術だけでなく、制度・意志決定手続きを含めて最終処分政策に信頼を寄せてもらうことが重要です。 政策への信頼が揺らいでいることが技術的な安全性への疑問という形で表に出ているのではないでしょうか。 原子力発電、高レベル放射性廃棄物の最終処分などは、トランス・サイエンスの領域にある技術(科学だけでは解決できない技術)であると言われています。このような領域にある科学や技術の利用にあたっては、近年の社会科学は、専門家の判断だけで決めるのではなく利害関係者が意思決定プロセスに参画をしたうえで高度な政治判断で決断することを求めています。トランス・サイエンスの領域にある技術に社会が信頼を寄せる鍵は、多様な価値観を持つ人たちによる価値観の共有の成否にあるとされています。意志決定プロセスに住民が安心し人が参加できる仕組みが重要です。これは、処分地選定などで著しい進展を見せている欧米諸国を見れば明らかです。 高レベル放射性廃棄物の最終処分を、社会問題と捉えて解決に向けて歩き出した欧米諸国の事例も紹介します。 連載では、今までに国によるシンポジウムや学習会に参加した人々の「聞きたいこと」「知 りたいこと」から次のような項目について解説をする予定です。

解説する項目

  • ①それはなに?どんなもの?
  • ②どうするの?技術は安全ですか?(1)最終処分の目標
  • ③どうするの?技術は安全ですか?(2)地層処分の選択
  • ④どうするの?技術は安全ですか?(3)日本には適地があるのですか?(1)
  • ⑤どうするの?技術は安全ですか?(4)日本には適地があるのですか?(2)
  • ⑥どうするの?技術は安全ですか?(5)日本には適地があるのですか?(3)
  • ⑦どうするの?安心できる制度ですか?(1)最終処分法
  • ⑧どうするの?安心できる制度ですか?(2)文献調査を認めれば処分地になる?
  • ⑨どうするの?安心できる制度ですか?(3)深地層の研究施設は処分場になる?
  • ⑩社会への定着に向けて(1)最終処分基本方針
  • ⑪社会への定着に向けて(2)科学的特性マップの提示と国民・地域社会の参加
  • ⑫社会への定着に向けて(3)処分地選定に向けたこれからの道のり-参加と信頼
  • ⑬社会への定着に向けて(4)地域発展計画に組み込まれた最終処分場
  • ⑭社会への定着に向けて(5)海外事例に学ぶ-最終処分地選定の状況(1)
  • ⑮社会への定着に向けて(6)海外事例に学ぶ-最終処分地選定の状況(2)

平成29 年7 月28 日、国から「科学的特性マップ」が提示されました。次回は、⑪ 社会への定着に向けて (2)科学的特性マップの提示と国民・地域社会の参加を掲載します。国民会議だより第10 号の内容について は、http://www.kokumin.org/dayori_archive により詳しく解説しているので合わせてご覧ください。

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